synapse8月号　安全・安心で快適に子育てできる住まいづくりのガイドラインが改訂！

子育て世帯が住宅に求めるニーズは年々多様化しています。その背景には社会の変化、働き方の変化、そして安全への意識の高まりがあります。こうした流れを受けて、国土技術政策総合研究所は2025年3月、「子育てに配慮した住宅と居住環境に関するガイドライン（改訂版）」を公表しました。このガイドラインは、住まいの構造や設備だけでなく、立地環境や周辺の子育て支援サービスも含めた「住みやすさ」の総合的な基準を示しており、賃貸住宅オーナーの皆さまにとっても、意識していただきたい内容となります。

子育てに配慮した住まいづくりとは

今回の改訂では、感染症対策や非接触の生活習慣への対応、テレワークの普及など、新しい生活様式に対応した住まいづくりの考え方が取り入れられました。たとえば、玄関付近に手洗い器を設けて帰宅後すぐに手洗いができるようにしたり、共用部や玄関周りに宅配ボックスを設置することで非対面の荷物受け取りが可能になるなど、日常生活の中での衛生・利便性の向上が重要視されています。これらの工夫は、日々の安心感やストレス軽減にもつながり、子育て世帯の満足度を高めるポイントとなります。

ガイドラインでは、転落事故防止に関するチェックポイントが詳細に示されています。調査によると、窓やベランダからの子どもの転落事故は全国で年間100件以上報告されており、その多くが「家具の上に登って窓から身を乗り出す」「ベランダの手すりによじ登って落下する」といった、住まいの構造に起因する事故です。ガイドラインでは、手すりの隙間は11cm以下、床面との隙間は9cm以下に設計する、窓には補助鍵を設置する、手すり付近に室外機やプランターなどを置かない、などの具体的な対策が推奨されています。

これらの内容は、新築住宅だけでなく、既存の賃貸物件の改修やリノベーションにも十分に取り入れることができます。たとえば、ベランダ手すりの補強、窓の補助鍵設置、段差の解消、指詰め防止構造のドアなど、コストを抑えながらも効果的に安全性を高めることが可能です。また、キッチンの動線を見直し、子どもが安全にお手伝いできるレイアウトにすることや、収納スペースを低い位置に設ける工夫も、子育て世帯には非常に好まれます。

補助制度などを活用し物件価値を高める

さらに、こうした住まいづくりを後押しする制度として、国や自治体では「子育て対応住宅」に対する補助金や低利融資を提供しています。これらの制度を活用すれば、オーナーの皆さまがリスクを抑えつつ物件価値を高めることが可能になります。特にファミリー層を対象とした賃貸住宅では、「子どもにやさしい住まい」という視点が空室対策の差別化要因となり、長期的な収益安定にもつながります。

少子化が進む中で、ファミリー層の確保は賃貸経営の重要課題です。空室対策にはリノベーションは有効ですが、さらに「安全で安心できる」「子どもの成長に配慮した」住まいを提供する意識を加えることで、今後の賃貸住宅に求められる新しい価値基準となるのではないでしょうか。